研究概要 |
申請者らは最近、冷却したメタノール中にPVA溶液を滴下することによって、PVAカプセルが作製できることを見出し、PVAカプセル中に酸素を固定化し、活性、安定性等に対するカプセル調整条件の影響を検討した。(Arigaら,J、Ferment.Bioeng.78,74-78(1994)カプセルはタンパク質などの分子量の大きな分子の物質移動に対して、ゲル状固定化担体に比べ有利であり、これまで様々に研究されてきた。しかしながら、PVAカプセルについてはこれまで、その調整の試みさえ報告がない。 本研究ではPVAカプセルの調整を与え、最適調整条件を検討するとともに、酵素の固定化条件を酵素の初期活性および安定性という見地から検討した。PVAカプセルはメタノール浸漬温度、浸漬時間を種々に変えることにより、希望の膜厚を持たせることができ、酵素の固定化担体として有用であると思われる。酵素の固定化によるMichaelis定数、最大反応速度に変化が生じ、その主な原因はPVAの共存にあることが分かった。PVAが酵素と基質の親和性に障害をきたしているのでPVAの固定化担体としての有用性が問われるかもしれない。しかし、安価で、毒性が無いので総合的には固定化担体として有望であるといえる。さらに、本研究ではPVAカプセルへの生細胞の固定化を試み、有用物質生産を検討した。冷却したメタノール中でのカプセルの作製により、カプセルの表面に付着もしくは存在する細胞はメタノールにより殺菌され、カプセルを無菌的に扱うことにより菌体の漏出のない、固定化細胞となった。これにより有用産物だけを得ることのできる新しい生産プロセスが期待できる。実際の実験においては、耐熱性α-アミラーゼを生産する遺伝子組み換え大腸菌およびβ-ガラクトシダーゼを生産する遺伝子組換え大腸菌の固定化を行ない、培地へのグリシンの添加によりPVAカプセルから酵素タンパクの生産が可能であった。また、酵素タンパクを菌体外に生産するBacillus属細菌の固定化を試み、グリシンを添加せずに長期連続培養を行なうことが可能であった。さらに培養条件の検討を行ない、培養条件の制御によりより菌体増殖を高める可能性を示した。
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