比較的ホモロジーの高い酵素間でのタンパク質モジュールの交換は可能であるとの考えから、2つのイネα-アミラーゼのキメラ酵素を作製し、その反応特性を検討した。一つのα-アミラーゼアイソザイムAmy1AにはN-結合型の糖鎖が存在しているため、糖鎖を持たないアイソザイムAmy3Dとのキメラ酵素を作製することによって糖鎖が付与された酵素の反応特性を検討した。 (1)糖鎖を持つAmy3D/1A及び糖鎖を持たないAmy1A/3Dの熱安定性を野生型の酵素と比較検討したが、糖鎖を持つAmy3D/1Aは他の酵素と較べ、熱安定性は低かった。以前の研究結果では糖鎖を除去することにより熱安定性が低下したことから、糖鎖の存在が熱安定性に有利に働くと考えられた。今回の実験で糖鎖を付与したにもかかわらず、高い熱安定性を示さなかったのはキメラ酵素であるためタンパク質全体の構造がゆるんだためと考えられた。 (2)可溶性デンプンに対する反応性は糖鎖を持たない野生型酵素Amy3DよりもAmy3D/1Aの方が高い反応性を示した。この結果は反応特性に糖鎖が関与していることを示唆しており、以前の研究結果とよい対応を示した。 (3)キメラ酵素の作製によって、α-アミラーゼのN-末端領域の構造が酵素全体の′堅さ′に重要な影響をあたえ、可溶性デンプンなどの長鎖の基質の加水分解効率に重要な影響を及ぼしていることが示唆された。また、下流側のバレル構造の部分は短鎖の基質であるオリゴ糖の分解効率に重要であることが示唆された。糖鎖はバレル構造の外側に存在すると考えられ、長鎖の基質である可溶性デンプンと相互作用を持ち、加水分解効率に影響を及ぼすものと考えられる。 以上の結果からα-アミラーゼのバレル構造近傍の表面に糖鎖結合部位を創出することにより、酵素の反応特性、特に長鎖の基質である可溶性デンプンの加水分解特性を変えうることが示唆された。
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