電気化学発光による抗体定量では、抗原抗体の分子量や荷電には関係なく、抗原上に標識されたルミノールの電気化学発光強度が増大することを水溶液系において確認した。また、その発光増強の変化は抗体濃度に依存した。当該年度は、陰電位印加時の発光量子収率および発光反応次数に着目し、その発光強度増大のメカニズムを解析した。また、実際にウシ血漿中におけるヒト抗体の定量を行い、他のタンパク質の影響を確認するとともに実用性の評価をした。陰電位を連続印加することによって反応部内の検体を完全に反応させ、抗体濃度による発光量子数の変化を比較した結果、抗体濃度増加に伴い、検出される発光量子数が増加した。これは、標識されていた発光物質ルミノールの周辺が抗原抗体結合により疎水的環境になり、水分子による励起ルミノールのエネルギー損失が減少したためと考えられた。そのため、発光量子数の増加は抗原抗体結合に依存することが示唆された。また、検出される発光波形の経時変化から見かけの発光反応次数について算出した結果、抗体量が増加するにしたがって陰電位印加直後の発光波形の減少速度が増加し、発光反応次数(反応効率)の増加が示唆された。そして一定時間を経過した時点の発光反応次数は、一定値を示すことが判明した。この結果、電位印加瞬間時の発光波形を測定することによって、抗原抗体反応による発光強度の変化を感度よく測定できることが判明した。ウシ血漿中におけるヒト抗体の定量では、水溶液系での発光強度と比較して全体的に発光強度の減少が確認された。これは、血漿中のFeイオンとルミノールの発光に必要なH_2O_2が反応を起こし、H_2O_2濃度が減少するためと考えられた。しかし、抗体量増加に伴い電気化学発光強度の増大が確認され、今後、適切な補正やH_2O_2のキレート剤の添加により血漿中における均一系免疫定量も可能であることが示唆された。
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