本研究は、ホログラフィックな手法に基づく高感度、高選択的なガスセンシングシステムを構築する上で必要な理論的、実験的な基礎を固めることが目標であるが、研究初年度にあたる本年度に得られた結果をまとめると以下の様になる。 1、各種基板を用いるホログム素子の作製と構造評価 金蒸着膜、酸化スズおよび酸化インジウム薄膜被覆ガラス基板上にフォトレジストをスピンコートし、紫外線レーザーの二光束干渉露光によりホログラム素子を作製した。作製条件の検討により本素子に要求されるサイズ約1.2cmφ、格子ピッチ約0.8μm、溝部分における下地基板表面の露出などを得る作製条件の最適化を行った。 2、チオールのSelf-Assembly(SA)挙動における金ホログラム素子の応答特性評価 メチレンブルーの酸化還元反応のモニターの予備的検討から、ホログム素子の基板材料に金蒸着膜と酸化インジウムを用いた場合とでは、同じ電気化学的着消色反応でありながら応答挙動が逆となり、反応に伴う基板の誘電特性の変化を抽出できることが示唆された。そこで、反応に伴う着消色変化のないチオールのSA反応を金基板ホログム上でその場観察してみた。その結果、これまでに報告されている同反応の時間挙動とは異なり、かなりゆっくりした光学応答が得られ、従来の反応機構では見過ごされていたSA膜の結晶化過程に関する新規な知見を実験的に初めて得ることができた。 3、酸化物半導体薄膜を基板とするホログラム素子の可燃性ガス応答 酸化スズ薄膜を基板とするホログラム素子を作製し、これをセットしたテフロン製セルに水素あるいは一酸化炭素を導入して、試験ガスに対する回析光強度の応答特性を調べた。その結果、信号強度の長時間安定性を確保するために素子雰囲気温度をある程度制御する必要が認められたが、応答速度の改善によりこの制約は緩和されるものと思われる。
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