研究概要 |
バンドギャップの異なる化合物半導体の超格子を多重に積相させると、量子井戸構造が作られ、電子的に特異な振動が観察されるようになる。超格子の作製には通常分子線エピタキシ-法が用いられ、その際のkセルは化合物半導体の構成原子の数だけ必要である。一方、有機半導体の超格子を作製する場合にはkセルは1つでよい。本研究は色素超格子を取り入れた量子井戸構造の作製を提案するもので、本年度は無機半導体薄膜への色素分子の配向について検討した。色素分子としては(AlPcF)_n(E_g=1.9eV)およびAlPcClを選び、無機半導体としてはダングリングボンドの生成を極力避ける目的で層状物質としその中で色素分子よりバンドギャップが大きいものとしてCaS(E_g=3.0eV)を選んだ。また他の視点からGe、GaNなども選んだ。 結果 (1)真空蒸着法により作製したGaS薄膜の構造 真空蒸着によって作製したGaS膜は、基板が330℃以上に加熱したSi(100),(111)の場合には、層状に結晶成長することを見出した。しかしSi表面に酸化層がほんの僅か存在しても、CaS膜はamorphous化し、GaSのエピタキシャル成長は厳しい格子整合条件下で起こると考えられた。 (2)Gas層状膜に蒸着した(AlPcF)_nの分子配向 層状構造のGaS薄膜上に(AlPcF)_nを蒸着した場合、基板温度160℃付近で(AlPcF)_nの分子配向が起きた。その面間隔は13Åであり、(AlPcF)_nはその分子軸をGaS面に平行に向けて配向しているとみなされた。同様の配向はH終端したSi面においても観察された。(AlPcF)_nは、ダングリングボンドの存在しないGaS面およびH-Si面上で、分子軸を横に向けた形でファンデルワールス・エピタキシ-を行う。一方、イオン性の表面であるKCl(100)においては、(AlPcF)_nは分子軸を垂直に向けて分子配向した。これは(AlPcF)_n分子中の極性基F^-が基板のK^+と静電的に吸引する作用が働くためと考えられる。AlPcCl分子はGaS層状膜およびH-Si面上でもKCl面と同様に分子軸を垂直に向けて分子配向した。 以上の結果から色素分子のエピタキシャル成長には格子整合性よりも静電的な吸引すなわち基板への吸着が大きく効いているという結論を得た。
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