アルキルボランはアルケンのハイドロボレーションによって容易に得られるが、ほとんどの非対称な内部アルケンは位置選択的にハイドロボレーションすることができず、位置異性体の混合物を与える。従って、非対称な内部アルケンを位置選択的にハイドロボレーションしたと同等のアルキルボランが合成できれば、これまで報告されている反応の適用範囲を大きく広げることができる。そこで、本研究ではトリブチルスズハイドライドをラジカルメデイエーターとする電子不足アルケンへのアルキルラジカルの位置選択的付加反応を利用し、通常の方法では得られないアルキルボランの合成について検討を行なった。 フェニルアセチレンをモノハイドロボレーションして生成する2-フェニルエセニルボランは、ホウ素基を有する電子不足アルケンと見なすことができる。これを用いてAIBN存在下におけるベンゼン中加熱環流、或いは室温における紫外線照射でアルキルハライドとトリブチルスズハイドライドから生成するアルキルラジカルの付加反応を行なった。その結果、双方の場合ともアルキルラジカルはホウ素基と結合しているアルケニル炭素へ位置選択的に付加し、その生成物の収率は加熱の方が光照射より一般的に良好であることがわかった。また、ホウ素基、すなわち、ホウ素原子上の置換基の影響について加熱の条件下で調べたところ、置換基としてボロン酸を用いた場合が最も良い結果を与えた。一方、上記の付加の配向性からアルキルラジカルとホウ素基との間で立体障害を引き起こす可能性が考えられる。実際、嵩高いアルキルラジカルと比較的嵩高いホウ素基との組み合わせでは反応が全く進行しないことを確認した。当初予想していたようにアルキルラジカルの付加反応が位置選択的に進行し、通常の方法では得ることのできない構造を有するアルキルボランが生成することを明らかにした。
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