今年度は、次のテーマに関する研究を行った。 (1)多点認識基を有するポルフィリン誘導体を合成し、認識基の数を1、2、3個と系統的に変化させたときの分子認識挙動をアミノ酸エステルの会合を調べることによって検討した。 (2)多点認識をモデル化し、各相互作用基の対の生成に伴うエンタルピー変化、エントロピー変化を実験的に求める方法と、それらの熱力学量のモデルでの対応する意味を検討した。 (3)多点認識に伴うエントロピー変化の中で特に分子の結合回りの内部回転によるエントロピーへの寄与を統計力学的に求め、実験値との対応を調べた。 (4)多点相互作用の応用としてポルフィリン誘導体を用いた糖誘導体の認識を調べた。とくに、溶媒効果を検討するなかで、極性溶媒の添加によって会合が強化される現象を見いだした。この研究は現在進行中である。 分子認識において、認識点の数が増加することによって異なる種類の運動が束縛されることに注目して、認識対の生成とそれに伴う運動状態の変化、エントロピーの減少を実験的・理論的に定量的に見積もった。並進・回転の運動が束縛されることに伴うエントロピー変化はそれぞれ30eu程度であり、さらに、分子内の結合回りの回転の束縛に伴うエントロピー変化は5eu程度であることが統計力学的な計算より見積もられた。多点相互作用基を有するポリフィリン誘導体とアミノ酸エステルとのクロロホルム中での錯形成を測定した実験から、並進・回転の運動が束縛されることに伴うエントロピー変化はそれぞれ15eu程度であり、さらに、分子内の結合回りの回転の束縛に伴うエントロピー変化は5eu程度であることがわかり、理論値とのくいちがいについては、溶媒効果、および、van der Waals相互作用のような効果であると考えている。
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