新たに合成した種々の芳香族ポリカルボン酸エステルならびにアミドの蛍光特性を詳細に検討し、置換基間の立体障害に起因する新しいタイプの二重蛍光現象の発現機構と、定量的な微視的粘度・圧力センサーへの応用に関する研究を行い、以下に述べる成果を得た。 1.昨年度の研究成果を基に分子設計を行い、ベンゼンヘキサカルボン酸エステルのアルコール残基の大きさを様々に変えたものを多数合成した。また、今回新たに上記エステルに対応するアミドも合成した。 2.次に、これらのエステルならびのアミドの二重蛍光挙動を蛍光分光光度計、蛍光寿命測定装置(ナノ秒およびピコ秒)および偏光解消測定装置を用いて測定し、その結果を解析することにより、この特異な二重蛍光現象が励起状態における隣接置換基間の立体障壁により発現していることを実証した。 3.発現機構が解明できたので、その成果を新たな蛍光プローブ分子の設計にフィードバックし、より二重蛍光性が高く、かつ粘度依存性も大きくなると考えられるプローブ分子を合成し、蛍光分光測定をするにより、最終的にベンゼンヘキサカルボン酸のtert-ブチルおよびメンチルエステルが最も顕著な二重蛍光ピークを示し、その粘度および圧力依存性も高いことが明らかになった。 4.この最適化分子を用いて、様々な粘度を持つ各種溶媒中で温度および圧力を変えて二重蛍光を測定し、粘度との定量的な関係を求めた。 5.この関係式を用いて、実際に代表的な分子集合系であるSDSミセルの微視的粘度の測定を行い、ミセル濃度により内部粘度が劇的に変化していることを初めて明らかにした。 以上の通り、これまで困難であった分子集合系中ならびに高圧下の微視的粘度を定量的に検知できるセンサー分子の開発を行い、実際の系に応用することが出来、所期の目的を充分達した。
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