昨年度までにo-アミノフェニル基をペリ位にもつポルフィリンを得、このアミノ基を介して直鎖および環状のペルフルオロアルキル基の導入に成功するとともに、それぞれについて、シスとトランスのアトロプ異性体を分離し、分光学的挙動を明らかにした。今年度はさらに、二官能性ペルフルオロ化合物としてヘキサフルオログルタリル酸クロリドを用いて反応を検討したところ、大変興味あることには、ヘキサフルオログルタリル酸クロリドが同一のアミノ基で閉環したイミノ型のポルフィリンが生成することがわかった。得られたポルフィリンのうち、トランス型ペルフルオロアルキルポルフィリンからは、対応するポルフィリン鉄(III)塩化物が比較的容易に得られることは昨年度報告したが、シス異性体についても、二塩化鉄との反応条件を種々検討することにより、鉄で架橋したμ-オキソ二量体を経由する二段階で合成できることを明らかにした。 これらのポルフィリン鉄錯体の酸素運搬能を評価する目的で、ポルフィリン鉄(III)塩化物の鉄(II)錯体への還元を試みたが、十分な変換は認められず、今後の検討課題として残った。 合成したポルフィリンの分光学的挙動を明らかにしていく中で、大変興味あるポルフィリンのフォトクロミック性を見い出した。すなわち、ある波長の光を照射すると本来の淡い赤褐色の溶液から黄色の溶液に変化し、さらに、熱によりもとの淡い赤褐色の溶液に戻るというものである。これは、ハロゲン化溶媒あるいはエチレンクロロヒドリン類を用いた時に効果的に起こり、これら溶媒の光分解により発生する塩化水素を介在としたフォトクロミック性の発現であることを明らかにした。光分解に及ぼす効果として、溶媒の種類や波長依存性、さらにポルフィリンの置換基について検討し、最適条件を見い出した。
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