研究概要 |
著者らは、有機化合物へ重水素を導入する方法として、重水酸化ナトリウム(NaOD)重水溶液中種々のラネ-合金を作用させる重水素導入有機化合物の合成法を開発している。しかしながら、重水酸化ナトリウムは高価であり研究室で用いるには価格のめんで汎用性があるとはいえない。このたび著者らは、実験室レベルで容易に使用可能な重水素化法を見い出した。例えば、ハロゲン置換フェノール類の炭酸ナトリウム重水溶液中でラネ-銅を作用させると、ハロゲンが結合した部位に位置選択的に重水素が置換した重水素置換フェノール類が得られることを報告した。さらにハロゲン置換フェノール類の飽和水酸化バリウム水溶液中で,還元能力の強いラネ-ニッケルを作用させるとシクロヘキサノールが得られることを見い出し、さらにハロゲン置換フェノール類に飽和重水酸化バリウム溶液中でラネ-ニッケルを作用させると、d11-シクロヘキサノールが得られた。ところが、塩基性条件下でのラネ-合金を用いる還元反応は数多くあるが、酸性条件下でのラネ-合金を用いる還元反応はあまり見当たらない。著者らはさらに、ベンゾニトリル誘導体(1)やフェニルアセトニトリル誘導体(2)の塩基性及び酸性条件下でのラネ-合金を用いる還元反応を検討した。1や2の塩基性条件下でのラネ-合金を用いる還元反応では、1からはジベンジルアミン誘導体が得られ、2からは2-アリルエチルアミン誘導体が得られた。さらに塩化スルフリル水溶液を用いる酸性条件下でのラネ-合金を用いる還元反応では、1からは主生成物としてベンジルアルコール誘導体が得られるとともに少量のベンジルアミン誘導体が得られた。この反応を塩化スルフリルの重水溶液中で行うとd2-ベンジルアルコールが得られた。2のラネ-合金を用いる還元反応では2-フェニルエタノール誘導体が主生成物として得られ、少量の2-アリルエチルアミン誘導体が得られた。酸性条件下でのラネ-合金を用いる1や2の還元反応ではニトリル基をヒドロキシメチル基に変換可能なことを見い出した。新たな官能基の変換方法を提供した。
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