プロペンの重合の際、チ-グラーナツタ触媒のほかに、外部ドナーとしてアルコキシシランを添加すると、イソタクチシチ-が向上する。その原因として、添加により対称中心の一部が非対称中心に転換することが考えられている。ところが、転換により生じた非対称中心はあまりリジッドではなく、l中心とd中心との間をゆらいでいるようである。このことは重合機構をNMRのタクチシチ-を用いて解析する際、転換により生じた非対称中心から得られたポリマーを、対称中心から生じたポリマーと誤認するおそれがある。誤認の際に、それらは非対称マルコフ過程にしたがうはずである。そこで、この研究では非対称マルコフ過程にしたがうとした場合の条件つき確率を求める式を導き、実験データをこの式を用いて解析した。その結果、イソタクチックポリマーに導く条件つき確率(二つある)のどちらもが増加するのではなく、一方によるイソタクチシチ-の増加が、他方による減少を凌駕するため、全体としてイソタクチシチ-が増加することが明らかになった。また、このモデルでは、使用可能なパラメーターの個数の制限により、対称中心から得られたポリマーを無視している。このため、対称中心から得られたポリマーの分率が多い系に対しては適用不能と考えられる。事実、熱ヘプタン可溶分に対しては、ほとんどの場合、適用不能であった。いずれにせよ、この研究により、ゆらいでいる非対称中心の存在が確立された。
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