1.エンジニアリング・プラスチックの脆性破壊に先だって生じるクレーズは単なる割れ目ではなく、クレーズ/バルク界面を相互に連結する繊維状の物質(フィブリル)と空隙(ボイド)からなる。このフィブリルが高分子が破棄するまで応力を担うので、高分子の破壊強度はこのフィブリルのボイドに対する割合やその直径あるいはそれらの間の間隔ならびにその生長機構と密接な関係があると考えられる。本年度の最初の成果はこのフィブリルの体積分率を評価する新しい手法を考察したことである。すなわち、高分子の1軸延伸による脆性破壊において、塑性変形が無視でき歪み量がそのまま全てクレーズ内に生じるボイドに転化するという仮定の下に、クレーズからの小角X線散乱の絶対強度測定の結果と試料片の延伸量とからクレーズ内のボイドの分率が求められることを示した。 2.今年度2番目の成果は、結晶性高分子試料にクレーズが生じ脆性破壊が始まってから完全に破断してしまうまでの間に、上記の理由で重要な役割を演じるフィブリルの直径ならびにその間隔が刻々どのように変化するかを測定することに成功したことである。すなわち、高分子試料片を1軸延伸しながら小角X線散乱の実時間測定(その場測定)を行ない、クレーズの発生に伴う散乱強度パターンがフィブリル間の干渉に基づく明瞭な散乱極大を示すことを観察し、これらの散乱曲線の解析から各時刻におけるフィブリルの直径やその間隔を評価することに成功した。その結果、結晶性高分子の脆性破壊においてもフィブリルの直径や間隔あるいはフィブリルの体積分率は破壊の初期から破断に至る最終段階までほとんど変化しないことを見いだした。このことからこの破壊は、クレーズ内フィブリルのクリープ破断によるものではなく、クレーズ/バルク界面からフィブリル内への高分子の流入が阻害されることによりフィブリルの破断が起きるためと結論された。
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