平成7年度(2年目)の研究成果は次の通りである。 1)結晶性汎用高分子をガラス転移温度より低い温度において1軸延伸し、破壊の前駆体として生じるクレーズの微細構造を透過型電子顕微鏡観察および小角・広角の電子線回折により明らかにした。すなわち、小角X線散乱の実時間測定の結果からは、高分子の脆性破壊時に生じるクレーズはその内部を橋掛けしている繊維状組織(フィブリル)が太さや間隔を一定に保ったまま伸びることによって生長し、フィブリルの破断は分子の流れ込みが阻害されたときに起こることが解明されているが、さらに、このフィブリルの制限視野広角電子線回折から、フィブリルの中での微結晶の配向が測定された。その結果、クレーズ/バルク界面からフィブリル内に流れ込んだ微結晶は、その分子軸(c軸)を延伸方向に平行に向けて高度に配向していることが示された。このことは破壊が非晶相あるいは非晶/結晶界面のみならず結晶相においても開始し、球晶組織が微結晶に破砕されながらフィブリルの中に流れ込むことを示唆しており、破壊の端緒となるフィブリルの破断の直接の原因は結晶による分子鎖の束縛ではないことが結論される。 2)非晶性スーパーエンジニアリング・プラスチックのクレーズの電子顕微鏡観察によりフィブリルは中央付近においてクリープ破断することが示され、これらの高分子が非晶性汎用高分子に見られるように、クレーズ/バルク界面からフィブリルへ分子鎖が流れ込むという従来の破壊機構とは全く異なった破壊を示すことが解明された。一方、フィブリルの平均の太さや間隔は汎用高分子と比べて特に違わないことから、分子の剛直性に起因した高分子の流動性が、脆性破壊時においても生じる微細領域における延性的挙動に影響を及ぼし、これがエンジニアリング・プラスチックの高強度の原因となっているものと推定される。
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