高分子試料をガラス転移温度より充分低い温度において1軸延伸し、破壊の前駆体として生じるクレーズの微細構造ならびにその経時変化を、小角X線散乱の実時間測定、透過型電子顕微鏡観察および小角・広角電子線回折により明らかにした。 小角X線散乱の実時間測定(時間分割測定、その場測定)の結果からは、(i)ポリプロピレンのクレーズはその内部を橋掛けしている繊維状組織(フィブリル)が、その平均の太さや間隔を一定に保ったまま長さ方向に伸びることによって生長すること、(ii)これはクレーズ/バルク界面の活性層から分子鎖がフィルブリル内に流れ込むことによって生じることを示しており、フィブリルの破断はこの流れ込みが阻害されたときに起こることなどが解明された。さらに、このフィブリルの制限視野広角電子線回折から、フィブリルの中では微結晶が分子軸を延伸方向に向けて高度に配向していることが結論された。このことは破壊が非晶相あるいは非晶/結晶界面のみならず結晶相においても開始し、球晶構造が微結晶に破砕されながらフィブリルの中に流れ込むことを示唆しており、破壊の端緒となるフィブリルの破断の直接の原因は結晶による分子鎖の束縛ではないことが結論される。 ポリスルホンおよびポリアリレートのクレーズの電子顕微鏡観察によりフィブリルは中央付近においてクリープ破断することが分かった。これは、非晶性汎用高分子に見られるように、クレーズ/バルク界面からフィブリルへ分子鎖が流れ込むという従来の破壊機構とは全く異なっている。一方、フィブリルの平均の太さや間隔は汎用高分子と比べて特に違わないことから、分子の剛直性に起因した高分子の流動性が、脆性破壊時においても生じる微細領域における延性的挙動に影響を及ぼし、これがエンジニアリング・プラスチックの高強度の原因となっているものと推定される。
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