研究概要 |
本研究は境界層遷移に関する基礎研究であり,特に後退翼の前縁コンタミネーションと密接に関係した強い攪乱に対する境界層の非線形応答を実験的に調べている.またこれは,乱流コンタミネーション自身乱流の芽がまさに生まれる過程であることから乱流機構を理解する上でも重要な問題として捉えられる.本実験では,粘性効果の大きな低レイノルズ数の平板上境界層に注目し,1)平板前縁での渦の音響励起および,2)線形安定理論による臨界レイノルズ数以下の領域に開けられた小孔からの渦の励起,の二種類の撹乱励起方法により強いヘアピン渦撹乱を導入している.得られた知見を以下にまとめる。 運動量厚さに基づくレイノルズ数が亜臨界の130〜150付近から(線形論による臨界レイノルズ数は200),初めに励起したヘアピン渦の流下と共にその背後(脚の部分)でヘアピン渦のリジェネレーションが始まり乱流遷移に導く.また,このような亜臨界遷移においては,スパン方向への乱流コンタミネーション(いわるラテラルコンタミネーション)が非常に弱い.すなわち,乱流域のスパン方向の拡がり角は,前縁からの距離に基づくレイノルズ数R_x=1×10^5以下では2度(半角の値)程度しかなく,高レイノルズ数での乱流斑点や乱流楔の拡がり角(約10度)に比べて遙かに小さい.レイノルズ数を少し増すと,拡がり角は急速に大きくなり,例えば,R_x=1.1〜1.7×10^5では4度(半角の値),R_x=2.0〜2.8×10^5では6.5度にまで増加する.また,生まれるヘアピン渦のスパン間隔は局所摩擦速度を用いた壁単位で100程度である.
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