研究概要 |
本研究では,ミクロ的経済主体だけを明示的にモデル化し,マクロ的経済挙動の生成および交通輸送需要の予測の可能性を検討した.すなわち,企業,住民,政府を人工生命体とみなした仮想世界を構築し,そこでの無数の生命体の自律的活動を観測することで,交通輸送を含むマクロ経済活動の分析がどの程度可能であるかを検証した. 研究の背景には,過去の統計に基づくマクロ的な計量経済モデルや需要予測モデルが,環境条件の大きな変化に対して追従困難であるという問題点を挙げられる.そこで本研究では,経済主体を人工生命とみなし,遺伝的アルゴリズムの概念を併用することによって,市場の自動調整メカニズムを非明示的に実現する規範モデルの構築を狙った.これによって,定性的にしか意味を持ちえないものの,多様なシナリオに対して景気循環,経済成長,環境汚染,輸送渋滞,スラム化等についての長期的な見通しを明らかにすることができる. 今年度は,昨年度の研究成果を踏まえて,東アジア地域を対象に仮想世界を設定し,経済予測および輸送需要予測を行った.多様なシナリオのもと,たとえば北朝鮮の開国が韓国と中国東北部との輸送需要および輸送ネットワークに及ぼしうる影響を分析することができた.とくに,開国後に北朝鮮国内の陸上ルートによる中韓貿易が活発になるととともに,従来からの黄海ルートも成長し続けるという興味深いシナリオも生成されている.これは,輸送ネットワークの拡張は新たな輸送需要を発生させるという経験側にも合致する.
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