氷はひずみ速度に依存してクリープから脆性に跨がる挙動(クリープ脆性挙動)を呈する。すなわち、低ひずみ速度域ではクリープ挙動、高ひずみ速度域では脆性挙動を呈し、クリープから脆性への遷移域で耐力がピーク値をとることが知られている。したがって、砕氷船、氷海構造物などが氷盤から受ける荷重はクリープ・脆性遷移域で最大となるため、このひずみ速度域の構成挙動のモデル化および氷盤の破壊解析に関心がもたれている。近年、マイクロクラックあるいはマイクロボイドなどの微視的損傷を連続体力学の枠内で扱う理論体系である連続体損傷力学の発展が著しい。氷のクリープ脆性挙動に対しては、Cocksが損傷力学に基づく構成式を定式化しているが、この構成式によればひずみ速度の増加とともに氷の耐力値は単調に上昇し、前述のクリープ・脆性遷移域におけるピーク値は現れない。本研究では、クリープ・脆性遷移域で耐力値がピーク値をとるように、現象論的立場からCocksの構成式を若干改変した。すなわち、マイクロクラックの発生および完全な損傷に対する限界応力値をひずみ速度に依存して低減させることにより、クリープ・脆性遷移域における構成挙動を改良した。さらに、この構成式を既存の2次元有限要素解析プログラムにインプリメントして、氷盤への剛体押込み問題を解析し、計算結果を実験結果と比較することにより、本構成式の有用性について論じた。
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