体細胞胚はABAによりしばしば乾燥耐性を獲得する。本研究はアブラナ属植物の花粉由来胚を用い乾燥耐性獲得の機構を解析するとともに、乾燥系人工種子として利用するために乾燥胚の特性を検討した。 1.種子の乾燥耐性に関与していると推察されているLae遺伝子に着目して解析を行った。体細胞胚はABA処理で乾燥耐性を獲得することが既に明らかとなっているため、ABA処理時間と胚の乾燥耐性の獲得およびLea遺伝子の発現を調査した。その結果、乾燥耐性を誘導できた胚においてのみLea遺伝子の発現がみられ、Lea遺伝子の発現と乾燥耐性の獲得は12時間以内のABA処理で同時に起こることが明らかとなった。また、それらの胚からLea遺伝子を単離し構造解析を行ったところ、両者の間にはアミノ酸レベルで82%の相同性が認められ、さらに11アミノ酸残基の共通配列の繰り返しがナタネで11回、ハクサイで9回存在することが明らかとなった。ナタネのゲノムライブラリーからLea遺伝子を単離し、プロモーター領域の解析を行った。その結果、Lea遺伝子のプロモーター領域にはABAによって誘導される遺伝子においてみられるABRE領域が存在することが明らかとなった。 2.Lea遺伝子Lea76をCaMV35Sプロモーター下につないだキメラ遺伝子を作り、タバコとナタネに遺伝子導入した。タバコで6個体、ナタネで2個体の形質転換体が得られ、それらの個体についてNaCl耐性をリ-フデスク法により調査したが、耐性は得られなかった。タバコのT1植物について、実生の段階でNaCl耐性を調査したところ、それらの中で若干のNaCl耐性がみられるものが見出された。 3.乾燥系人工種子としての可能性をはかる目的で、乾燥胚の貯蔵性について調査した。その結果、乾燥胚は-80℃の貯蔵条件下で3年間植物体再生能を保持し、また液体窒素による凍結保存も可能であることが明らかとなった。一方、テステープ法により乾燥胚の生死を簡便に判断できることが明らかとなった。
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