昨年の実験において、耐冷一多収の観点から、水稲登熟期の光合成産物の代謝が重要であることが明らかになったので、本年は、穂1/3摘除処理と止葉以外の下葉摘除処理を行って、ソース・シンク関係に注目して実験を行った。 1)水稲葉身の光合成産物代謝では、Sucrose-Psynthaseの性質や炭水化物分析の結果から、デンプンよりもショ糖を大量に蓄積する特徴があり、このことが葉のソース機能と密接に関係していることが明らかになった。 2)水稲の登熟期間は、ソース・シンク関係から、出穂直後の穂重増加が緩慢な登熟開始期、穂重増加が最も著しい登熟初期、穂重増加が緩やかになる登熟中期及び穂重増加がほぼ停止する登熟後期の4期に分けられ、葉及び茎の炭水化物代謝は穂重増加とよく対応していた。 3)登熟初期にシンク能の発現とともに葉身及び茎に蓄積していた炭水化物の大部分は急激に穂に転流したが、穂摘除処理では転流量が小さかった。このことから、この時期に穂に転流した炭水化物の半分程度が出穂前蓄積分と推定され、収量に貢献しただけでなく、シンク活性を高め、ひいては登熟歩合に著しく影響したと考えられる。 4)出穂30日後の登熟中期には、葉身及び茎に再び炭水化物の蓄積が顕著になった。特に穂摘除処理で著しく、全炭水化物量が大きくなるほどショ糖の占める比率が大きくなった。また、炭水化物の蓄積順序は、まずショ糖であり、ショ糖濃度が極限に達するとデンプンの蓄積が始まった。ショ糖は、体内可動型の炭水化物であることから、この時期の光合成産物の転流は、ソースよりもシンク活性に制限要因があったと推定される。 5)以上のことから、出穂前の蓄積分を如何に確保し、登熟初期一中期の生産力を如何に高めるかが、耐冷-多収稲作の基本的な問題であることが明らかになった。
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