本年度は1964年に制定されたアメリカのウィルダネス法と我が国の1972年の自然環境保全法の関係を中心として研究を進めた。具体的には、ウィルダネス法がアメリカで成立する過程に関する研究結果を踏まえて、その法律自体やそれに規定されるウィルダネス空間が日本で紹介されていく過程と自然環境保全法の成立との関連を雑誌などの記事から探るとともに、当時の自然環境保全法制定関係者に対するインタビューから捕った。 その結果、当初はウィルダネス法に規定される動力を使わないレクリエーション利用も日本における保全法制定において考慮されていたが、次第にレクリエーションよりも科学的見地からの保全が中心となり、人々の利用ということは考慮されなくなっていったことが明らかになった。その理由として第1に環境庁設置直後という環境保全志向の時代背景があげられる。第2に、当時すでに過剰利用となっている国立公園とは異なる保全中心の空間が自然保護を重視する人々から求められていたこともあげられる。第3に、関係者は国立公園を包括し、都市空間の緑地をも含む国土レベルと保全空間システム構築の構想を抱いていたので、国立公園との違いを保全中心ということで示す必要があった。 しかしながら、他省庁との調整の結果、その法律は極めて限定された空間の自然環境保全に留まり、自然環境保全法に規定される核心的な原生自然環境保全地域は既存の国立公園の特別保護地区を割り当てることにもなった。このような結果として利用が軽視され、人々にも認識されない空間となった。
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