生体内での水の存在状態は生理・代謝機能を維持するのに重要な意義をもち、^1H-NMR緩和時間(T_1、T_2)は、水分子周辺のミクロな物理的環境の情報を与える。本研究ではエンドウ(Pisum sativum)GA_1欠損の突然変異矮性種Progress No.9を用い、細胞内の水の存在状態という観点から、矮化特性の指標の一つとしてT_1が適用される可能性について検討した。Progress No.9は高性種Alaskaに比し、高いT_1値を示し、水の構造化が低いことを示した。GA_1処理により矮性種は伸長生長するが、伸長帯のT_1は含水量の低下を伴わずに著しく短縮した。このことは、矮化特性をモニタリングする指標としてT_1は有効であることを示唆する。これらの結果は平成6年、第24回国際園芸学会議(京都)及び第58回日本植物学会(札幌)で報告した(その一部は既に植物の「化学調節」(1993Vol.28)に記載)。更に、チューリップTulipa gesneriana“Oxford"球根を用い、球根植物のT_1を求めることによって、休眠状態ならびに低温遭遇状態を非襲侵的に判定する方法を開発した。プロトンシグナル強度においては、低温遭遇(15℃-3wk→5℃-8wk)球根鱗片では組織内に均一に自由水が分布し、また対照区(20℃-11wk)では自由水の分布は各鱗片の内側に特異的に偏っていることを明らかにした。T_1イメージにおいても低温遭遇球根の鱗片の方で全体的にはT_1値が長く、これらのイメージはTNBT(テトラニトロ・ブルー・テトラゾリウム)による生体染色の像とも一致した。このことは低温遭遇球根の鱗片の水の運動性と細胞の代謝活性とはよく相関することを意味している。即ち、低温遭遇によってチューリップ球根鱗片では花芽を含むシュートへ生長に必要な物質を送るための準備が既に整っていることを示唆している。以上のことから、同法は球根の低温充足を知るための非侵襲的方法として極めて有効であることを示した(園芸学会誌別冊1995印刷中)。
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