本研究は、畦畔草地が持っている景観構成や生物種の多様性維持機能に関して、畦畔草地の今日的役割を評価して、適正な管理手法を示すことを目的とする。このために、平成6年度は、以下のような調査研究を行った。 (1)我国の畦畔草地の現状把握と広域的比較 熊本県下、広島県下、福井県下、千葉県下、愛知県下において農地畦畔の草地の植生調査を行い、植物種類組成と群落高等を調査した。各地ともに様々な型の植生が存在し、各地域における生物群集の多様性維持に貢献していることが明らかになった。また、同一地域内に種々の植生タイプが存在しているけれども、それらは地域固有のものではなく、他の地域にもそれぞれ類似性の高い植生が見られた。このことは、畦畔の植生がそれぞれ畦畔の歴史や現今の農業生産に伴う畦畔の維持管理の違いを反映しており、地域内における多様な農業展開の存在が、畦畔草地の多様化、ひいては生物群集の多様化をもたらす結果になっていることを示している。 (2)愛知県足助町の山間部に位置する水田において、畦畔の環境測定として、温度、光量子の継続的測定を行った。測定期間がイネの収穫後にあたるために、裸地に近い状態にある水田部分に比べて、枯れ草や越年生草本植物が存在する畦畔は、温度の変動が相対的に小さかった。 (3)各地の畦畔において常在的に出現したススキ、トダシバ、スズメノヤリ、ノチドメ、カゼクサ、アキノキリンソウ、ユウガギク等59種について種子を収集し、種子重量、サイズを測定した。22種類について種子の一部を温室内のポットに播種し、発芽経過を調査したところ、直ちに発芽したもの(12種)、徐々に発芽してきたもの(6種)、ほとんど発芽しなかったもの(4種)であった。
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