本研究は、高層建築物の壁面緑化部を対象に、昆虫類や鳥類の生息状況を把握するとともに、それらの緑化部の環境状態との関連性について言及を試み、今後の整備や維持・管理手法について、野生の生き物の生息面から考察すること。また、屋上緑化部を対象に、周辺公園緑地間における鳥類の移動を把握し、屋上緑化部の整備に際しての鳥類生息からみた基礎的データの把握を主な目的とした。そこで、東京都および横浜市内において、壁面緑化部を有する3箇所の建築物を選定し、昆虫類および鳥類の生息実態調査を実施した。また、鳥類の移動に関する調査に関しては、屋上緑化部を有する建築物を1箇所選定し調査を実施した。以上のうち昆虫類は、見取り調査、ベイトトラップ調査および誘引調査を2箇所において実施したが、緑化に使用れている植物がツル性植物に限られており、植食性の昆虫類には不適当な生息環境となっていることや植え升が小面積であることなどにより、全体で5目6科7種13個体の昆虫類が確認されたにとどまった。しかしながら、壁面緑化部沿いのバルコニーに設置した調査木には、アゲハチョウが飛来・産卵したことなどから、昆虫類の誘引を目的とした植栽樹種の検討が、今後必要であるものと指摘される。一方、鳥類については2箇所において定点観察を実施したが、2箇所の壁面緑化部および周辺において観察された種類は8種類のみであり、直接利用したのは4種類のみであった。また、周辺において観察された鳥類も非常に限られており、鳥類による壁面緑化部の利用は総じて少ないものと推察される。したがって、鳥類と食餌植物との関係を重視した植栽樹種の選定や周辺における公園緑地とのネットワークの検討が、今後重要であるものと考える。また、鳥類の移動については、定点観察および追跡調査を実施した結果、一部の種類の鳥類生息においては屋上緑化部が有効に利用されていることが把握された。
|