本研究は、高層建築物の屋上緑化部および壁面緑化部を対象として、昆虫類や鳥類生息状況を把握するとともに、それらの緑化部の環境状態との関連性について言及を試み、今後の屋上や壁面緑化部の整備や維持・管理手法について、野生の生き物の生息面から考察することを主な目的とした。そこで、東京都および横浜市内において10箇所の調査対象地を選定し、昆虫類および鳥類の生息実態調査を実施した。このうち昆虫類については6箇所において実施し、全体で8目28科37種269個体の昆虫類が確認された。全調査を通して垂直方向に移動力の弱い地表性の昆虫類を除き、10階程度の高さは昆虫類の移動にとって可能であるものと考えられる。また、多様な植物の植栽や薬剤散布等の管理が限定された環境状態での昆虫類の種類数や個体数は、他に比較して多く、緑化方法や維持管理方法によっては、昆虫類の生息は十分可能であるものと考える。一方、鳥類調査については9箇所において実施し、全体で2目11科14種の鳥類が確認された。全調査を通してみると、10階程度の高さにおいても周辺に生息している鳥類が飛来していることが把握された。しかし、飛来した個体の多くは一時的に緑化部を利用しており、その生息空間は広範囲にわたるものと考える。したがって、緑化部を緑の「点」として捉え、周辺の公園緑地などとのネットワークを整備することで、「面」としての生息空間を創出することにつながるものと考える。以上のように、高密化した市街地の代表的構造物である建築物と野生の生き物の共生や多様性の保全を目指した際に、建築物の屋上や壁面部の整備に関して、ビオトープとして機能付けた緑化は、その有効な一手法であるものと考えられ、生き物の生息を見込んだ整備目標や内容の明確化が望まれる。また、維持・管理にあたっても、生き物の生息空間を考慮した機能区分による対応が必要である。
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