ハスモンヨトウは、休眠性を示さないが、日本の南西暖地で冬を越すことができ、それらが北へ移動することによって、各地での発生がもたらされると見なされてきた。しかし、本研究でのフェロモントラップで捕獲した雄成虫からみたハスモンヨトウの発生消長は、発育効温量から推定したものとは著しく異なっていた.しかも、8月末から9月初めにかけて、台風が接近した時に捕獲数が突発的に増加したが、その前に、それを裏づけるような野外での幼虫の大発生はなかった。佐賀市での雄成虫の捕獲消長は、鹿児島市でのそれと良く一致し、そこでも台風接近時に捕獲数が突発的に増加することが明らかとなった。本研究では、さらにフェロモントラップで捕らえた雄成虫から血液を採集し、その中に残存する飛翔エネルギー源を分析・比較した.その結果、低気圧や台風が通過あるいは接近したときに捕らえた個体では、血糖の主成分であるトレハロースと、血液中をリポホリンによって運ばれるジアシルグリセロールのレベルが著しく低い個体の比率が増えることが明らかになった.また、こうした時期に捕らえられた個体の多くに翅の著しく損傷したものが目立った.一方、10月になって、野外での幼虫の発生が目立つようになってから捕らえられた個体では、それらの、中でもジアシルグリセロールのレベルが高いものの比率がかなり高くなった.こうした結果から、ハスモンヨトウのかなりが、飛翔エネルギー源をほとんど使い果たしてしまうような、海外から飛来し、それらが秋の大発生をもたらすものと推定した.
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