家蚕フィリッピ腺の機能を解明する目的で本研究を行った。導管の管壁厚、内腔径、外径は5齢中ほぼ一定の数値を示した。導管長は750〜830μmであり、前部糸腺への連結部管壁は肥厚し、連絡孔内径は導管平均内径の1/2以下であるが、フィルター状構造物はみられず、導管への溶液の流入は容易と見受けられた。中部糸腺に注入した赤インクの導管内流入が確認された。導管の腺体内開口部の形態は先端が尖っている毛筆型、幅広くなったブラシ型、開口部が2〜3個認められる分岐型が観察されたが、数的割合には発育段階による変化は認められなかった。日124と繭をつくらない裸蛹系PNdとの間にフィリッピ腺の形態及び導管の形態計測結果に相違はなかった。フィリッピ腺々体表面は複雑に褶曲し、表面積を拡大させて、血液と接触している様相がうかがわれ、解剖所見でも気管の分布は極めて多かった。電顕観察では、細胞質にはミトコンドリア、微細管以外の細胞小器管はほとんど見られず、多数の液胞、基底陥入、グリコーゲン顆粒が観察された。特にミトコンドリアは液胞周辺に多く、グリコーゲン顆粒も多く、エネルギーを必要とする活発な機能の存在を示唆している。5齢では、フィリッピ腺の生重、DNA量・RNA量、タンパク質は、大きく増加し、この点からも活発な機能がうかがわれた。SDSゲル電気泳動では、フィリッピ腺の構成タンパク質は、前部糸腺ときわめて類似していたが、特異的タンパク質の出現はみられず、タンパク質性物質の分泌は確認されなかった。フィリッピ腺のpHは5齢では6.0〜6.5と、微酸性を示し、繭糸生成の際のpH低下との関連性が推測された。MgイオンやCaイオンの存在も確認された。pHの測定結果や電顕観察などを考え併せると、フィリッピ腺の機能はCaをはじめとする無機物質や水分の輸送、交換または調節にあることが一段と強くなり、活発な機能を有するものと考えられる。
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