1.人工飼料を与えて無菌飼育した蚕の5齢幼虫のアレルギナーゼの組織内局在性を調査する目的で、アルギナーゼ活性発現のために必要な金属イオンの種類とその濃度を脂肪体組織の磨砕液を酵素液として用いて検討した。その結果、マンガンイオンを終濃度で0.08mM反応液に入れることによって最大の活性化が得られることを明らかにした。この測定条件ならびに脂肪体の磨砕液を酵素液として用いて、酵素濃度と反応生成物量の関係、反応時間と反応生成物量の関係、pHと活性の関係、基質濃度と活性の関係を調査した結果、人工飼料育蚕の脂肪体中にアルギナーゼが存在することを確定した。他の組織のうちアルギナーゼ活性が高かった組織は雄の精巣ならびに雌の卵巣原基であり湿重量当たりで脂肪体に匹敵する活性を示した。蚕一個体当たりでは脂肪体が最大活性を示し、その他の組織は脂肪体と比較できる活性を示さなかった。 2.脊椎動物で窒素代謝の最終産物を尿酸の形で排泄するものは肝臓のアルギナーゼはミトコンドリアに局在し、尿素で排泄するものは肝臓のアルギナーゼは細胞質に局在するというようにアルギナーゼの細胞内局在性が異なることが知られている。蚕は尿酸排泄性であるとされているが尿素を生成することも明かであるので脂肪体細胞のどこにアルギナーゼが局在するかを明らかにすることは科学的意味がある。脂肪体細胞磨砕液を分画遠心して、各細胞画分のアルギナーゼ、ならびにチトクロームCオキシダーゼ活性を測定した。その結果、人工飼料を与えて無菌飼育した蚕の脂肪体のアナギナーゼは細胞質とミトコンドリアの両方に局在すること、ミトコンドリアに局在するアルナギ-ゼはミトコンドリアのマトリックスに局在する可能性が明示された。今後細胞質とミトコンドリアのマトリックスの指標酵素の活性を測定することによって、上の可能性を確定する必要がある。 3.人工飼料育蚕の脂肪体のミトコンドリアのマトリックスからアルギナーゼを抽出する方法を確立した。 4.人工飼料育蚕の脂肪体のアルギナーゼは細胞質ならびにミトコンドリアのマトリックスのいずれに局在するものもポリアクリルアミドを支持体とする分析ゲル電気泳動で移動度が似ており、0.5であった。アルギナーゼはかなり耐熱性があること、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによって他のタンパク質と分離できることが明かとなった。これらの手法はアルギナーゼの精製方法として有望なものである。
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