研究概要 |
絹は太古より衣料用繊維の主座を占めており、その快適性能や高級感覚は消費者の魅力を誘うのに十分であるが、他方において現代の消費者は合繊なみの手軽さを求めている。そこで、本研究で取り扱う絹の黄変が大きな問題となる。 本研究の目的は、絹糸の黄変機構を解明すべく、黄変に関与する絹糸の化学成分を同定することにある。ここでは、人工飼料育蚕(A)から得られる絹糸の黄変度が小さいことに着目して,天然桑育蚕(M)から得られる絹糸とAの絹糸の化学組成と黄変を対比することによって、黄変に関与する物質を推察した。具体的には、原標準試料となるA及びB繭試料を選定し、両者の試料からセリシンとフィブロインを分離し、それらの化学組成、タンパク質成分組成の差異を調べた。さらに、原繭試料及び段階的にセリシンを抽出した繭糸(フィブロイン)試料に紫外線(UV)照射を行い、各試料の黄変度と化学組成との関係について検討し、黄変関与成分を推定した。 本研究によっていくつかの進展が見られた。まず、人口飼料育繭(A)の黄変度は桑葉育繭(M)に比べて白度が大で黄変度が小さいことを再確認した上で、両者の化学組成の差異を検討した。両者のフィブロイン部分のアミノ酸組成及びX線的構造はほぼ同じであった。一方、A試料のセリシン部分は、M試料に比べて、熱水への溶解性が高く、かつ、分別物のアミノ酸組成も若干異なることを見いだした。また、A試料とM試料との黄変度の差異には、熱水可溶の非タンパク質成分量の差異が関与している可能性が示唆された。
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