双子葉植物ミトコンドリアのF_1-ATPaseはα、β、γ、δ、δ'、それにεの6種のサブユニットから構成され、ミトコンドリアゲノムにコードされたαサブユニットを除くと核遺伝子によってコードされている。我々はサツマイモミトコンドリアF_1-ATPaseのγ、δ、δ'、εの4種のマイナ-サブユニットの全てを精製してcDNAクローニングを行い、他生物種や葉緑体のF_1-ATPaseのサブユニットとの対応を明らかにしてきた。本研究においては、植物からは始めてマイナ-サブユニットの核遺伝子クローンをサツマイモやその近縁二倍体野生種から単離し、特に、δ、δ'、εサブユニットでは複数の核遺伝子について構造を決定することができた。複数のサブユニット遺伝子の間で、特にエキソン部分の構造は高度に保存されていたが発現において違いが見られるかに興味が持たれた。2つのδサブユニット遺伝子では5'-上流域に互いに他方の遺伝子に無い2種の挿入配列が含まれていたものの、これら挿入配列以外の部分では高い相同性を示した。2つの遺伝子の5'-上流域配列と大腸菌のβ-グルクロニダーゼ(GUS)との融合遺伝子はいずれも形質転換タバコ培養細胞や再生タバコ植物個体で発現し、いずれも活性ある遺伝子であったが、2つの融合遺伝子の培養細胞や再生個体における発現レベルや発現パターンには明らかな違いがあった。DAM1遺伝子に存在するIns-1配列を欠失させると、培養細胞においてはGUS比活性は約3倍高くなり、DAM2-GUS融合遺伝子形質転換細胞とほぼ同じレベルにまで上昇した。しかし、形質転換タバコ植物個体の各器官におけるGUS活性の発現レベルやGUS活性の組織染色パターンは、Ins-1配列の欠失によって大きな影響は受けなかった。DAM2-GUS融合遺伝子の根での高い発現レベルにはDAM1遺伝子にないIns-2配列か、あるいは両者で相同性の見られない更に上流の領域が関与している可能性が示唆された。
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