生理活性蛋白質の薬物への応用には、標的指向性を有するdrug delivery systemの開発が不可欠であり、人工膜リポソームは、これら蛋白質薬物のキャリアーとして注目されている。しかし、膜に親和性のない親水性蛋白質への応用は困難であり、蛋白質の膜局在化のための新手法が待たれている。本研究では、蛋白質翻訳後修飾の一つである蛋白質N-ミリストイル化が、蛋白質の膜局在化に機能する事に着目し、親水性蛋白質のN-末端に、遺伝子工学的手法によりN-ミリストイル化シグナルを導入し、N-ミリストイル融合蛋白質を作製する事により、膜局在性の蛋白性薬物の創製を試み、以下の結果を得た。 親水性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)-cDNAのmature domainの直前に制限酵素サイトを導入し、このサイトに、起源の異なる2種のN-ミリストイル化シグナルを組み込むことにより、2種のN-ミリストイル融合TNF遺伝子を構築することに成功した。このうちRashccd lcukemia virus Gag-蛋白質のミリストイル化シグナルを組み込んだ融合遺伝子については、ウサギ網状赤血球ライセ-トを用いたin vitroでの転写・翻訳に伴い、[^3H]-ミリスチン酸が翻訳産物中に効率良く取り込まれることを明らかにした。またこの取り込みは、ミリストイル化シグナル中の2位のGlyをAlaに変換したmutantでは全く生じなかった。さらにこのin vitro転写・翻訳により得られた[^3H]-標識されたミリストイル化融合蛋白質とリポソームとの結合をFicoll 400密度勾配遠心法により検討したところ、ミリストイル化融合蛋白質は顕著なリポソーム結合性を有することが見いだされ、ミリストイル化シグナルを蛋白質N-末端に導入することにより、任意の蛋白質にリポソーム結合性を付与し得ることが明らかになった。
|