チオストレプトン(TSP)生産菌S.azureus PK100C株の染色体ライブラリーよりの2.5kb挿入断片を保持した組換えプラスミドpSAB931を分離した。本pSAB931を保持した形質転換株BalA1は気菌糸形成能を欠失していたが、TSP感受性の枯草菌に対しPK100C株の3倍以上の阻害を示した。さらに、本菌株はTPS耐性であるS.azureus野生型株PKOやTSP生産性でかつ耐性のS.laurentiiの生育も阻害するTSP以外の抗菌物質を産生し、S.coelicolorの抗生物質undecylprodigiocinの生産を早期誘導する物質を産生した。これらの物質は低分子であるが、拡散性は余り大きくなかった。一方、BalA1株はPKO株やS.laurentii等の菌株とのcross-feedingによって気菌糸着生能が回復した。これらの結果は、本菌株が気菌糸形成に関与する低分子物質産生を欠失した変異株であることを示している。 次に、pSAB931中の2.5kbの挿入断片の構造を検討した。まず、2.5kbの挿入断片をプローブとして、PKO株をはじめ、S.cyaneus、S.laurentii等の多くのStre-ptomyces属放線菌で本遺伝子と相同な遺伝子の存在を確認した。この結果は、本遺伝子がStreptomyces属放線菌で広く存在すことを示し、S.azureus中では休眠状態もしくは低コピーで発現していたたものが、ベクターに挿入されたため、その機能が高発現して強く顕在化したものと推察された。本挿入断片をpUC119中にサブクローニングし、Exonuclease IIIを用いてディレーションを行なった。ディレーションサンプルをTTH polymeraseを用いたdideoxy法によって塩基配列の決定を行なった。本挿入断片は2495bpの塩基配列を有し、そのG+C含量は70.18%であった。また、ORFの検索を行なったところ、900bpからなるORFの存在が確認されたが、報告されている遺伝子及びアミノ酸配列に有意な相同性は見いだせなかった。
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