研究概要 |
甲殻類の性は雄にのみ存在する造雄腺でつくられるタンパク性の造雄腺ホルモンによって内分泌的に決定されることがわかっている.このホルモンの精製を試みた.材料として,生物検定が比較的容易なダンゴムシを用いた.野外から約35000匹の雄ダンゴムシを集めた.これまでの精製では,造雄腺,精巣,蓄精嚢,輸精管を含む雄の生殖腺全体を出発材料にしていたが,種々精製法を検討した結果,造雄腺ホルモン活性とクロマトグラフィーで挙動を共にする貯精嚢と輸精管由来の多量のペプチドが精製を邪魔することがわかったので,今回の精製では貯精嚢と輸精管を除くことにした.まず,ダンゴムシの造雄腺と精巣を摘出した.このうち3000個を用いて予備実験を行った.これを20mM塩酸を含む1M酢酸で2回抽出した.この抽出液は約0.4匹相当量で造雄腺ホルモン活性を示した.この抽出液について順次,硫安分画沈殿(50-80%飽和),SepPak C18逆相カラム(10-50%アセトニトリル溶出)で精製した後,Senshu Pak VP-304カラムを用いた逆相HPLCにかけ,アセトニトリルによる濃度勾配溶出を行った.活性は1ヶ所に回収された.この活性区は,その40ngを若い雌に注射すると,雄への性転換活性を示した.この値は,1987年,長谷川らによって生殖腺全体から8段階の精製操作を経て得られた最も進んだ精製の活性区の活性にほぼ匹敵したことから,今回,出発材料を変えてわずか4段階の精製操作で以前の8段階に匹敵する精製ができることがわかった.ここに得られた活性区は明らかにまだ少量の不純物を含むが,ホルモンの単離に向けて初期精製方法が確立できたと考えている.現在,残りの材料を用いて精製を続行中である.
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