本研究は、生体内微量物質であるビタミンの欠乏や微量元素の増減によって起こる、つまり、食物摂取パターンによって起こる神経受容体の変性メカニズムを明確にし、神経細胞死までには到らない、受容体変性モデル動物を作出することを目的として行なわれ、以下のような結果が得られた。 アルコルビン酸(AsA)欠乏下の遺伝的アスコルビン酸合成不能ラット(ODSラット)の脳では、線条体においてドーパミン代謝の低下が、大脳皮質においてセロトニン代謝の亢進が起こり、それに伴い各種受容体の結合能が変化していることが示された。ODSラットはAsA欠乏食を与え、個別で飼育するだけで中枢系に異常が起こり、さらに、この変化はAsAを投与することによって回復することが判ったので、今までとは異なるタイプの神経疾患動物モデルとして利用できる。 バナジウムの長期投与では、ムスカリン性アセチルコリンレセプターの蛋白質が変化し、結合親和性が減少することがわかった。アルツハイマー病では、このレセプターの結合部位数の減少がみられるが、バナジウムによる影響とは異なっている。しかし、アルツハイマー病とアルミニウムとの関連も指摘されており、微量金属であるバナジウムの神経系に関する研究は脳神経疾患のメカニズムの解明に役立つと考えられる。 亜鉛欠乏ラット脳海馬では、細胞間隙のアラチルコリン(ACh)濃度が増加し、AChレセプターの結合部位数が大きく増加し、親和性には変化はなかった。亜鉛がAChの挙動に対して影響を及ぼすことが確認されたが、この作用が直接的なものなのか、グルタミン酸レセプター阻害による2次的なものなのかは不明であり、今度、この点においては詳しく検討を行なう必要がある。
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