インスリン様成長因子(IGF)-Iのひとつの特徴として、ペプチトホルモンでありながら体液中で特異的な結合タンパク質(IGFBPs)と会合している点が挙げられ、現在までに6種類のIGFBPsの存在が報告されている。本研究では、IGFBPsによるIGF-I生理活性の制御機構を色々な側面から明らかにすることを目的とし、まず、各種動物細胞の培養液から種々のIGFBPsの単離・精製を試みた。6種類のIGFBPsのうち、ラット肝癌H4-H-E細胞あるいはBRL-3A細胞の無血清培養液より、疎水クロマトグラフィー・陰イオン交換クロマトグラフィー・逆相HPLCを用いて、簡便にラットIGFBP-1あるいはIGFBP-2を単離・精製することに成功した。現在、ラット神経芽細胞B104sの細胞培養液よりIGFBP-4の単離・精製を試みている。また、ラットIGFBP-3およびIGFBP-5については、それぞれのcDNAを含むexpression vectorをCHO細胞に導入し、これらを大量生産する細胞株の樹立を進めている。同時に、それぞれのIGFBPsに対する抗体も取得した。これらのIGFBPsが、endogenousあるいはexogenous IGF-Iの生理作用にどのような影響を与えるかを調べるために、IGF-Iを生産しないIGF-I標的細胞であるラット甲状腺由来細胞FRTL-5にヒトIGF-I cDNAを導入した細胞株を樹立し、遺伝子導入細胞株と野性株のDNA合成量を比較した。その結果、外から添加するIGF-I、すなわちendocrine型IGF-Iの生理活性は細胞が分泌するIGFBPsによって抑制されるのに対して、autocirne型IGF-IはIGFBPsの影響を受けず、効率よく細胞増殖を誘導することが明らかとなった。今後は、IGFBPsの精製標品をこれらの細胞に添加し、IGFBPsの生理的意義について検討を加えていきたいと考えている。
|