研究概要 |
高血圧自然発症性ラット(SHR)由来の動脈平滑筋細胞(VSMC)をPDGF-AA及び-BBで処理すると,PDGF-BBでは細胞増殖が起こったのに対しPDGF-AAでは細胞の肥大化が見られた.正常ラット(WKY)由来の細胞ではPDGF-BBは強い増殖作用を起こすがPDGF-AAはなんら作用を示さない.したがってPDGF-AAの作用はSHRに特有のものであり,本態性高血圧患者における動脈平滑筋細胞が肥大化を起こしていることが知られているので,高血圧発症との関連性が考えられる.そこでPDGF-AAによる細胞肥大化のメカニズムについて検討した.SHRの細胞にはPDGF-AAを結合するPDGF-αリセプターがPDGF-BBに特異的なβリセプターとともに発現していた.WKYの細胞にはαリセプターの発現が見られなかったことより,αリセプターの発現がSHRの細胞におけるPDGFに対する異常な応答を起こす原因であり,さらに高血圧発症との関連性が示された.次にSHRの細胞でのPDGF-AAと-BBのシグナリングの相違を検討した.チロシンリン酸化を調べたところ,phospholipase C-_<γ1>,phosphatidylinositol 3-kinaseのリン酸化はともに見られたが,Ras-GTPase activating protein(GAP)のリン酸化はPDGF-BBでのみ見られた.フォスフォリパーゼ類の活性化について比較したところ,PDGF-BBではフォスフォリパーゼC,Dともに活性化されダイアシルグリセロール及びフォスファチジン酸のレベルの上昇が見られたのに対し,PDGF-AAではフォスフォリパーゼDの活性化が起こらず結果的にフォスファチジン酸のレベル上昇は起こらなかった.したがってGAPのチロシンリン酸化の有無,フォスフォリパーゼDの活性化の相違が本細胞におけるPDGF-AAと-BBの作用の違いを引き起こしていると考えられる.
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