n-6系およびn-3系高度不飽和脂肪酸(PUFA)の栄養生理作用を明らかにするため、n-6系であるリノール酸、γ-リノレン酸およびアラキドン酸、n-3系であるα-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)をその他の脂肪酸組成が同一の食事脂肪に一定割合で添加し、SD系および自然発症高血圧ラット(SHR)に3週間および2ケ月間与え影響を調べた。その結果、EPAおよびDHA摂食群で血清トリグリセリド濃度が減少し、また、DHA摂食群では血清コレステロール濃度も低下した。組織リン脂質中のアラキドン酸含量はアラキドン酸>γ-リノレン酸=リノール酸>α-リノレン酸>EPA>DHA摂食群の順に減少がみられた。血小板トロンボキサンA_2(TXA_2)産生能はリン脂質中のアラキドン酸含量と高い正相関を示し、DHAの摂取で最も効率的に低下した。一方、大動脈でのプロスタグランジンI_2(PGI_2)産生能はアラキドン酸摂取群で増加したが、n-3系PUFAでは減少しなかった。このことから、n-3系PUFAは血小板TXA_2の産生を抑制し、一方、大動脈でのPGI_2産生は抑制しないことにより、血小板凝集抑制的に作用していると考えられ、その効果はDHAで最も強いことが初めて明らかとなった。また、SHRにおける収縮期血圧の上昇はDHA摂食群で抑制された。 以上の結果から、血小板TXA_2産生能が組織リン脂質中のアラキドン酸含量にかなり依存していること、一方、大動脈でのPGI_2産生はリン脂質中のアラキドン酸含量への依存性が低いことが明確に示された。また、α-リノレン酸、EPA、DHAのうちではDHAが最も強力なTXA_2産生抑制作用を示すことが明らかとなった。これらの結果はいずれもこれまで得られていない知見であり、PUFAの有効利用に大きく貢献すると考えられる。
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