研究概要 |
前年度において、空回腸置換手術を施したラット腸管中の空腸位置へ移した回腸が、空回腸間を部分切除後そのままの位置で縫合した空腸や回腸より、更に著しい絨毛の伸長と粘膜固有層の肥厚を伴うことを観察した。この背景となる遺伝子レベルでの動きを探るため、術後2,5日目の小腸粘膜からpoly(A)^+RNAを調製し、初期応答遺伝子c-mycとc-fos,細胞成長因子insulun-like growth factor-1(IGF-1)の遺伝子およびポリアミン(プトレッシン)生成酵素ornithine decarboxylase(ODC)の遺伝子に対するNorthern blot解析を行なった。その結果、c-mycやIGF-1遺伝子の小腸における発現はほとんどみられず、わずかに発現のみられたc-fosやODC遺伝子でもβ-actin遺伝子発現量との対比から小腸部位間に差異のないことが確かめられた。しかし、置換された回腸粘膜上皮細胞が前述のような顕著な過形成を受けるためには何らかの因子の関与があり、今後は腸腔粘膜側からの刺激(例えば消化産物による)作用解明に目を向ける必要があろう。次に、機能的には回腸に局在することが知られているNa^+依存性胆汁酸輸送担体(ileal bile acid transporter,以下IBAT)遺伝子の発現応答について検討した。Northern blot用のプローブは、最近 塩基配列の決定されたラットIBAT c-DNAの494-973bpをprimer pairに用い、ラット回腸poly(A)^+RNAをRT-PCRで増幅、これをpUC19のSmalに組み込みE.coli DH5に導入、増殖された大腸菌より当該プラスミッドを単離し、制限酵素(Ncol,Xho l)処理して得た。解析の結果、空回腸置換手術の有無や術後時間経過の長短(5日目、80日目)あるいは過形成の程度の如何にかかわらず、IBAT遺伝子の存在は回腸由来の小腸部位のみに見い出された(ただし、発現量の定量的評価は困難)。また、アフリカリツメガエル卵母細胞を用いた機能タンパク質の発現実験でも、回腸由来のpoly(A)^+RNAを注入した場合のみ輸送活性の有意な増大が認められた。
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