研究概要 |
ニンニクが産生する揮発性成分中より,強力な血小板凝集抑制成分として単離・同定されたメチルアリルトリスルフィド(MATS)の血小板に対する作用を検討した。すでに、我々は、MATSが血小板のアラキドン酸代謝を阻害し、その系によるトロンボキサンA_2(TXA_2)生成が低下、阻止されるために、凝集が惹起されないことが明らかにされている。本研究では、そのような知見のもとに、MATSがTXA_2産生系である血小板内のアラキドン酸カスケードに対してどのように影響するかを検討し、以下の結果を得た。 1、MATSは、アラキドン酸からPGG_2をへてPGH_2を生成する初発酵素prostaglandin endoperoxide synthase (PGH-synthase)を阻害し、thromboxane synthaseを阻害しない。 2,MATS存在下アラキドン酸が消費されることから、PGH-synthaseの持つ、cyclooxygenaseとperoxidaseのうち前者の活性は阻害せず後者のみの活性を阻害すること示唆された。 3,Lipoxygenaseをわずかではあるが阻害したことなどから、既存の多くの特異阻害物質とは異なる作用を有することが明らかになった。 4,PGH-synthaseは、血管内皮細胞中にも存在して、強力な血小板阻害物質として知られる生理活性物質PGI_2の産生にも関与している。MATSは、この血管内皮細胞によるPGI_2の産生をも協力に阻害した。 これらの成績を総合すると、MATSは生体内において血小板阻害による抗血栓作用を発揮するのか、逆にPGI_2産生の阻害に起因する血栓傾向を助長するのか,というジレンマに陥る。すでに、アスピリンがこのようなパラドキシカルな性質を持つことが知られているが、血管内皮への影響が血小板より低いということで、事実上ジレンマはみられていないことを考えると、ニンニク成分の場合も血栓形成を促進することはないものと期待される。しかし、この点については、未検討であり、今後の研究課題として残された。
|