今日世界的な環境問題として注目を浴びている熱帯林の減少は、過剰な焼畑耕作、放牧、薪炭採取、木材伐採、そして火災などが主要な要因だと考えられている。しかしその相対的な重要性を特定するのは、直接間接の要因が絡み合っているため、たやすくない。本報告では、熱帯林の減少の要因を計量経済学の手法、すなわち重回帰分析を用いて整理する。具体的には、熱帯林に関するデータとして、基本的に1993年に発表されたFAOの「1990年森林資源評価:熱帯諸国」を、また、木材の生産・輸出のデータとしては、FAOの「林業年鑑」を用い、国単位で横断面分析を行った。 また森林減少面積を分析するに当たって、なんらかの形で規模要因を除去する必要がある。本報告では、森林減少は人間の営みであるとの立場から、一人当たりの説明変数を用いて、一人当たりの森林減少面積を分析した。 本報告の最終的な成果によれば、一人当たりの森林減少面積は、森林面積、農地面積、既伐採面積と新規伐採面積の多い国ほど、大きくなる。牧場面積はこれに対して逆に作用し、牧場面積の多い国ほど森林減少は少なくなる。牧場が非伝統的焼畑や不法耕作のターゲットになることによって森林減少のバッファーとして機能しているのかもしれない。 森林バイオマスは負の係数となった。森林が豊かであるほど森林減少面積は小さいことになる。人口増加も正で有意の係数となった。これも妥当であろう。アメリカ・ダミ-は正、アフリカ・ダミ-は負となった。 また、GNPなどの経済的な要因は森林減少と、有意な関係がないとの結論を得たが、散布図分析で明らかになったように、GNP水準に対して森林減少は逆U字型を描くためにここにおける線型の定式ではうまく把握できなかったためと解釈できる。
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