研究概要 |
過去3年にわたる調査の結果、調査を行ったマツ林では合計5種の寄生蜂の生息が確認され、これらの寄生蜂の垂直分布構造には、寄生蜂の産卵可能な樹皮厚と寄生蜂の飛翔力の種間差が、局所分布には同じく寄生蜂の産卵管長に関連した樹皮厚および寄主密度が密接に関係していることが示唆された(論文準備中)。これをさらに詳細に検討するため、9〜10月に褐変したクロマツ、アカマツの試料木を伐倒し、そこでの寄主および寄生蜂の群集構造や寄生率、高さ別分布パターン等を解析した結果、やはり寄主密度と寄生蜂密度の垂直的分布のモードは一致していなかった。寄主密度が高い上層部と樹皮厚の厚い基部では寄生率が低かったのに対し、3〜5m付近がもっとも寄生率が高く、樹皮厚と飛翔力の2要因に関するトレード・オフ的関係が示唆された(論文準備中)。 また、2種の寄生蜂、Atanycolus initiator,Spathius brevicaudisの寄主利用様式とサイズに依存した性比調節の違いについての知見にもとづき、人為的操作により寄主と寄生蜂の接種・産卵実験を行っており、Charnovのモデルの樹皮下穿孔虫寄生蜂への適用可能性について引き続き検討している。これまでの一連の調査により、本調査地域における寄生蜂と寄主の種組成が解明され、また特定時期ではあるが寄主・寄生蜂の垂直分布構造もある程度明らかにされたため、研究のとりまとめ以降も寄主群集の時空間的構造と寄生蜂の繁殖戦略の問題についてさらに考察を深めたいと考えている。
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