北海道の針広混交林(針葉樹林下と広葉樹林下)のトドマツ若木の葉群の垂直分布(樹冠形)は広葉樹林下と針葉樹林下で異なり、広葉樹林下が樹冠が深く発達した複層的であったのに対して、針葉樹林下が樹冠上部に葉群が偏った単層的な分布となっていた。個体当りの着葉量は、いずれの林分においても樹高増加にともない指数関数的に増加したが、ある樹高以上では着葉量の増加率が鈍り、個体当りの着葉量に上限が存在することを示唆した。さらに、暗い針葉樹林下の最大着葉量は、明るい広葉樹林下のそれの僅か9%に過ぎず、最大着葉量は光環境に応じて変わることが明かとなった。樹高伸長量は、広葉樹林下の方が明かに大きくなっていた。各林分における若木の年齢を調べた結果、針葉樹林下の若木の方が広葉樹林下のものより高くなっていた。以上の結果から、耐陰性の高いトドマツは、若木段階において樹冠形態や樹高成長量に見られたように形態的可塑性が発達しているからこそ、不均一な光環境となっている森林下層において普遍的に分布できるものと推察された。樹冠の可塑性の発達の重要性が指摘されたと言える。しかし、各林分の若木の枯死木の樹高分布を調べたところ、6〜8mの樹高階にモードをもつ正規分布を示した。この結果から、樹冠可塑性の発達によって耐忍できる期間にも限度があり、閉鎖状態が長期間に及ぶ場合には、耐陰性の高い樹種であっても下層を通過し林冠層に到達するのは難しくなっている可能性も推察された。今後、こうした現象が一般的なものであるかどうか、他の森林においても解析する予定である。
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