本研究の目的は、リモートセンシングである高感度放射温度計の表面温度画像と熱収支観測を組み合わせて蒸発散量を推定する方法(ここでは表面温度法と呼ぶ)により得られた蒸発散量分布が、どのような要因に起因するのかを明らかにすることである。そのため、土壌水分量、ヒートパルス速度を同時に測定し、蒸発散量分布との関係を解析した。本研究の研究成果は以下のようである。 (1)愛媛大学農学附属演習林のヒノキ林において表面温度観測、熱収支観測とヒートパルス速度の観測を同時に行った。ヒートパルス速度は、測定木の蒸散と強い相関関係がある。そのため、表面温度法で推定された蒸発散量との関係を調べることで、表面温度法による蒸発散量分布を検証することができる。この観測の結果、表面温度とヒートパルス速度の関係は負の相関があり、ヒートパルス速度の大きな樹木は、表面温度が低いことがわかった。さらに、表面温度法から推定される蒸発散量とヒートパルス速度関係は、蒸発散量が大きいとヒートパルス速度も大きいことが明らかになった。 (2)次に滋賀県高月町のスギ、ヒノキ林において、表面温度観測、熱収支観測、ヒートパルス速度の観測と土壌水分量の観測を行った。表面温度法による推定蒸発散量では、スギ、ヒノキで明らかに違いが見られた。この蒸発散量の差異の特徴は、ヒノキはスギより午前中に蒸発散量が大きく、スギはヒノキより午後に蒸発散量が大きくなる傾向があった。この差異は、ヒートパルス速度でも見られ、スギ、ヒノキのヒートパルス速度の差と蒸発散量の差には対応関係が見られた。また、この観測期間中に42mmの降雨があり、土壌水分に変化が生じた。しかし、蒸発散量分布への影響は見いだせなかった。この結果から、土壌水分変化と蒸発散分布の関係は、明らかにできなかった。土壌水分の変化と蒸発散分布の関係は今後の研究課題としたい。
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