近年急速に進歩した分子生物学的分析技術を用いて、マツ科植物のDNA分類・系統学的研究を行った。その結果、次のような新たな知見が得られた。 1.マツ科を構成する9属間の系統関係:マツ科を構成している9属10種の葉緑体DNA上の遺伝子(rbcL)の塩基配列情報から系統樹を作成した。マツ科の中では、ツガ属とマツ属が早い時期に分岐したことが明らかとなった。また、カラマツ属とトガサワラ属はきわめて近縁であった。 2.マツ属内の樹種間における系統進化:わが国に天然分布する全8樹種と外国産マツの10樹種の計18樹種について、葉緑体DNA上の遺伝子(rbcL)のDNA塩基配列データから、マツ属植物の系統進化の解明を試みた。その結果、従来きわめて近縁であると考えられてきたクロマツとアカマツは系統上比較的早くに分岐していた。また、三葉松類は、単系統ではなく、異なる系統で起きた平行進化によって生じていた。さらに、東アジアに分布している五葉松類は、塩基配列に大きな違いがなかったことから、種分化して間もないことが明らかとなった。 3.東アジア地域のカタマツ属の系統関係:東アジアに分布する6樹種の葉緑体DNAのスペーサー領域(3箇所)の塩基配列を決定した結果、進化速度の早いスペーサー領域であるにもかかわらず、樹種間で塩基配列に全く違いがなかった。このことは、この属の種分化の時期が他に比べてきわめて遅かったことを示している。 4.ハッコウダゴヨウの分類上の位置付け:核DNAのRAPD分析手法を用いて、ハッコウダゴヨウおよびキタゴヨウ、ハイマツの核ゲノム(約100遺伝子座)構成を調査した。その結果、ハッコウダゴヨウは、従来から考えられてきたようにキタゴヨウとハイマツの雑種であることが、DNAレベルで確認された。
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