本研究は、樹木の塩吸収における蒸散速度への影響を明らかにし、かつ吸収された塩が木部通道組織から柔細胞のイオンポンプによって除塩されることによって、葉への塩の蓄積を抑制する機能を解析的にとらえ、それぞれのパラメータを明らかにし、これをもとに個体全体としての耐塩性の違いを評価するととも、耐塩性の生理的なメカニズムをより解析的に解明しようとするものである。当該年は、苗木の蒸散量および光合成、気孔コンダクタンスに及ぼす塩処理の影響をみるために、耐塩性が異なると推測される6樹種1年生苗を用い、ワグナーポット(1/5000a)に移植養生したうえで、実験はガラス室内で行った。蒸散量の計測はポット全体をポリ袋で包み、重量の減少量から蒸散量を求めた。塩水濃度は、NaClで0、13、25、50、100mM溶液の5段階(繰返しは5本)である。塩水処理期間は50日間とした。葉の被害率を観察しながら、光合成・蒸散・気孔コンダクタンスの計測は携帯型光合成蒸散測定装置を利用し、定期的に計測した。塩吸収量は処理終了後、苗木を根(細根、太根)、葉、幹・枝に分け、それぞれのNa、K、Ca、Mgイオンの濃度を原子吸光分析法により分析した。この結果、根からのNa吸収においてreflection coefficient(反射係数)に樹種間に違いが認められ、耐塩性の重要なパラメータの一つになることが明らかになった。また、耐塩性の大きいニセアカシアと小さいツツジを比べた場合、吸収したNaが根や幹に蓄積する量は、樹種間に大きな違いがあることを確認したが、同時に両樹種を含めて蓄積したNaの量によく対応して根・幹からkイオンの放出があり、これが葉に蓄積することが明らかになった。このことから電気的なバランスを維持するために、イオンの置換が行われたものと予想し、Ca、Mgなどの陽イオンの分析も実施した。その結果、NaCl処理塩濃度が高い場合に葉での蓄積がわずかに抑制されるが、イオン置換はほとんど無視できることが明らかになった。しかし、陽イオンばかりでなく、陰イオンも含めてその動態を明らかにする必要性が認識された。
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