これまでの調査でSteinernema属線虫の生息が明らかにされた玉川大学の構内林地(町田市)と箱根演習林に弟子屈演習林を新たな調査地として加え、森林土壌中における線虫の水平分布、垂直分布の実態を究明した。 各地で環境条件や植生を考慮して、それぞれ2調査地を設定した。各調査地では、10m x 10mの調査区を設け、調査区内は2m x 2mの小区画に分けた。これら小区画から採取した土壌について、ハチノスツヅリガ幼虫を用いたトラップ法で線虫検出を行った。箱根演習林の1調査地を除く全ての調査地でSteinernema属線虫を検出した。小区画でみた線虫の検出結果は、調査区による検出率などの違いはあったが、いずれも調査区内に広く分布することを示していた。線虫の垂直分布に関しては、A_0層を除く、地表から深さ25cmまでの範囲で生息していることを明らかにした。このような、林地における線虫の生息実態は、森林生態系の生物要因として線虫が果たす役割を解明していくうえでの手がかりとなるものである。 本研究での弟子屈演習林を対象とした調査では、演習林内のカラマツ林およびグイマツ林におけるヒラタハバチ被害の大発生と重なり、林内土壌中に生息する線虫がヒラタハバチの発生消長にどのような関わりをもつのかを追跡する好機となった。調査結果では、線虫のヒラタハバチ潜土幼虫に対する寄生も確認された。今後、森林生態系で果たす役割としての昆虫密度制御機能について追求する端緒となる成果といえる。 各調査地での分布が確認されたSteinernema属線虫は全て同一種であることが示されたことから、この線虫が森林に広く分布する普遍的な種であることが示唆された。
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