森林土壌中における昆虫寄生性線虫の生息分布実態を調査した。玉川大学構内林他(町田市)、玉川大学箱根演習林、同弟子屈演習林それぞれの調査区で、Steinernema属線虫の平面的な広がりおよび深度について分布実態を明らかにした。線虫は林内土壌中に、表面おおむね25cmまでの深度で広く分布し、分布様式としてはバッチ状で局所性がみられた。このような林地における線虫の分布実態は、森林生態系の生物要因として線虫が果たす役割を解明していくうえでのてがかりとなるものである。各調査地森林土壌から検出された線虫については、共通した特定の種であることを確認した。本種は、既知種の中でS.feltiaeに最も近似しているが、本研究を通じ、新種としての特定を可能にする形態的、生態的特性が示されたことで、新種であるとの結論に達した。さらに、既往の成果とあわせ、本種は各地森林土壌に普遍的に分布する種であることも明らかになった。本種は、10℃から25℃の範囲でハチノスツヅリガ幼虫に対して等しく強い殺虫性を示した。 弟子屈演習林で調査区としたカラマツ林に大発生したヒラタハバチ被害との関連において、本種のヒラタハバチ潜土幼虫に対する自然感染が確認された。殺虫試験では、ヒラタハバチ潜土幼虫に対する殺虫性が小さく、天敵生物としての評価は低かった。 ハチノスツヅリガ幼虫を用いたトラップ法による線虫検出について、土壌中における生息線虫との量的関係の解析を行った。このような線虫の量的分布実態の検討は、本種が宿主昆虫に対して積極的に探索活動を行うクルーザータイプであることを示した。 温度適応性、とくに低温適応性について温度別に生活史を追った結果から、本種が既知種との比較においても、より低温に適応していることを明らかにした。
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