本研究は、森林を構成している樹木特性と植生構造の変化が水循環にどの様な影響を及ぼしているかについて考察を加えるを目的とし、目的達成のために、下記の5項目について検討を行った。 (1)樹皮構造の定量化 (2)樹冠部構造の適正な把握 (3)樹皮構造とStemflowとの関係 (4)樹木の形態因子と樹幹流との関係 (5)ブナ天然林・カラマツ人工林・広葉樹天然林での遮断特性の把握 (1)について、広葉樹33種、針葉樹10種の計43種について樹皮拓法を用い、樹皮拓の最適面積と樹皮構造の分類化を行った。(2)について、林冠構造の把握にあたり樹冠冠開空の林冠内での分布を計測する必要がある。この樹冠開空度合が林内雨に多少に大きく影響を与えていることは周知の事実である。しかし、この開空度の計測は従来、過去の経験的な測定によっていた。適正な把握を行うにあたり樹冠部の写真撮影の手法改革とネガ現像法およびフイルムスキャナーによるネガからのコンピュータへの直接入力それにともなう二値化画像への変換と階調分布を用いての画像処理によって、より正確な樹冠開空度を得ることに主眼を置き一定の技術の確立を行った。(3)について、樹幹部で生起する水収支のメカニズム解析を目的に、同一樹種3本の幹を18樹種につき幹吊り下げ法を用い、降雨強度、降雨継続時間が樹皮構造にどのように関わっているか降雨初期・降雨中・降雨後の水の移動と貯留様式の動態について検討を加えた。(4)について、実験苗圃の樹皮、樹形構造の異なる10種の樹木(針葉樹・落葉広葉樹・常緑広葉樹)を対象に樹木形態因子が樹幹流に及ぼす影響の検討を行った。樹木形態因子の定量化は、樹皮凹凸率・葉面積指数・フラクタル次元の3因子について実験考察を行い、樹幹流との間に比較的良好な相関が得られた。(5)について、本年度は、前年度に新たに広葉樹天然林を設け3実験区(日本大学水上演習林)で植生変化が降雨再配分に及ぼす影響について検討を行ったが、1995年は降雨日が少なく3実験区で得られたデータでの比較検討を十分に行うことが出来なかった。今後継続実験を行い実林分で得られた結果と上記(1)(2)(3)(4)との結果についての再検証を行う予定である。
|