研究概要 |
昨年度までの研究によって,渓流の扇状地や氾濫源における侵食地形の発達に地下水が何らかの役割を果たしており,これが河床変動や扇状地の地形変化に影響を与えていることに関する定性的な知見が集積された.今年度の目標は,より緻密なデータ収集により,これまで定性的にしか評価できなかった事項に関し,より定量的,実証的分析を行いうるデータを収集し,冒頭にあげた仮説を検証できるようにすることである. 今年度の調査の中心は地下水と表流水の関係をより明確にするために,それらを採取して水質分析を行い,特に地下水の由来を探ること,およびトレーサを地下水に投入し,その経路を追跡することによって地下水脈の動態を探ることであった.沖積氾濫原内に形成された細長い溝(トレンチ)の中および周囲に井戸をうがち,これらと共に河川水や湧水状況には大きな差があり,地中に特定の水路となりやすい構造があることが推測され,トレンチの形成がパイピングによるという仮説を裏付ける状況証拠が得られた.水質分析の結果からは,地表浅い部分で採取される地下水と表流水の間に明瞭な差はみられず,水位観測の結果とあわせて地下水と表流水はほぼ同じ由来を持ち,非常に近い関係にあることが結論された. 本研究の立ち上がりが遅れた(追加採択のため初年度の研究開始が12月であった)ため,空中写真等の手段による解析が遅れているが,従来からの地形測量結果と対照すると,トレンチの形勢はパイピングが原因であるとの仮説が一層補強された。このことにより,扇状地や氾濫原における地形変動や多様な水環境の理解を深めることが可能になる。現在,これらの結果を論文にまとめるべく,鋭意作業中である.
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