スギの衰弱に及ぼす針葉抽出物の影響を把握する為、次の各実験を実施した。(1)採取スギ針葉の乾燥中のジテルペン炭化水素含有量の変化を経時的に追究する。(2)杉針葉から単離した(-)カウレン及びフェルギノールをスギヒラタケ菌とともに培養し、その減少量を経時的に調べる。(3)スギ樹幹流とスギ枝葉の水浸出物についてpH、UV、EC、無機イオンの組成及び揮発性勇樹成分組成を比較する。 その結果、殺菌の有無に関わらず、針葉含水率の減少とともにカウレン含有量は急速に増加するか、含水率が一定となる10日以後、速やかに減少することを知った。液体培養ではカウレン、フェルギノールの存在は、難溶解性のためスギヒラタケ菌の生長に影響を与えず、いずれの物質も3カ月以上ものスギヒラタケ菌の作用に抵抗し、フェルギノールが極微量のスギオロールを生成したに留まった。 樹幹流のpHの樹種間の変異は晩秋において最も顕著で、中性〜塩基性の樹幹流を与えるブナやミズナラとは逆にスギは強い酸性の樹幹流を生じた。このことは蒸留水を用いた人工降雨試験でも支持された。スギ枝葉の水浸出物についても、浸出初期には樹幹流と同じ携行が認められ、針葉抽出成分の樹幹流への影響の大きいことが示唆された。各種成分分析の結果、物質の同定には至らなかったが、スギ樹幹流の強酸性は枝葉の水溶性抽出成分が原因であろうと推定された。スギ枝葉でも酸性樹幹流を生じるが、水浸出時間が長くなると、中世に戻ることが認められ、一過性の降雨と長期の洪水や積雪とでは降水のpH調節に及ぼす樹木の影響は異なることが推測された。
|