スギの衰弱に及ぼす枝葉抽出物の影響を把握する為、次の各実験を実施した。(1)スギ枝葉抽出物の分画・単離を行い、その植物生長調節作用を調べる。(2)採取スギ針葉の乾燥中のジテルペン炭化水素含有量の変化を追及する。(3)(一)カウレン及びフェルギノールのスギヒラタケ菌による生分解を調べる。(4)スギ樹幹流、散水実験、スギ枝葉の水浸出物についてpH、UV、EC、無機イオン組成及び揮発性有機成分組成を比較する。実験の結果、白菜種子、芝生種子、スギヒラタケ菌の生長に及ぼすスギ枝葉抽出物の効果は、一様ではなく、白菜では促進、芝生、スギヒラタケ菌では阻害作用が認められた。殺菌の有無に関わらず、乾燥にともない針葉のカウレン含有量は急速に増加するが、含水率が一定となる10日以後、速やかに減少し、森林土壌や大気中に放散されると推定された。液体培養ではカウレンの存在は、スギヒラタケ菌の生長に影響を与えず、生分解にも抵抗した。フェルギノールは培養初期に阻害作用を示したが、後、回復し、生成物として極微量のスギオールなどを生じた。 中性〜塩基性の樹幹流を与えるブナやミズナラとは逆にスギは強い酸性の樹幹流を生じた。このことは蒸留水を用いた散水試験、スギ枝葉の水浸出物についても示され、針葉抽出成分の樹幹流への影響の大きいことが示唆された。スギ枝葉は水浸出初期には酸性化するが、長期にわたると中性に戻ることが観察された。樹幹流の各種成分分析の結果、物質の同定には至らなかったが、スギ樹幹流の強酸性は枝葉の水溶性抽出成分が原因であろうと推定された。以上の点から、生物種や季節、あるいは一過性の降雨と長期の洪水や積雪などで効果は異なるが、スギの強酸性樹幹流は、林床や周辺生物相にかなりの影響を与えると考えられた。
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